リーディングドラマ「にごりえ」

 2006年4月2日、彩の国さいたま芸術劇場映像ホールにて、第2回≪声の会≫自主公演が上演されました。演出・浅川安子、出演者15名

 樋口一葉作「にごりえ」をほぼ原作通りの脚本で構成し、1時間20分の舞台です。




 ≪声の会≫より  樋口一葉さんへ


 あなたは明治5年に江戸にお生まれになった。その15年後、ご両親は郷里山梨から出奔して、江戸の下級武士にはい上がったのでしたね。そんな激動期のお父様の姿、「にごりえ」の中に感じとってもいいでしょうか。

 あなたは6人兄弟だった。でも若くして死なれてしまったり、没縁になったりして、結局お母様と妹くにさんと三人でくらしを立てなければならなくなりましたね。樋口家の没落以降の御苦労は、大変なものとうかがっております。近所の銘酒屋の女たちにしてあげた手紙の代筆の仕事も、見事この「にごりえ」に結晶しているのではありませんか。

 一方であなたは中島歌子の歌塾「萩の舎」で上流階級のお嬢さまたちと一緒に学ばれた。豪勢な生活も極貧の暮らしも、あなたがじっと見つめてきた世界に愛しさが感じられます。

 あなたは半井桃水さんに恋心を持った、「にごりえ」の結城さん像はそんな面影の人と似ていますか。でも恋が成就されていたら、あなたの美しい作品群が生まれていなかった気もするのですが。

 「大つごもり」「たけくらべ」「にごりえ」「十三夜」。あなたの日本語の見事さ。どれも読むに美しく、語るに張りがあり、私たちを魅了してなりません。
 私たちはあなたの言葉をそのまま舞台にいたします。あなたとつながりたい一心で語ります。




舞台美術は、左右に畳一畳ほどのスペースで「菊の井」と「源七の家」、それぞれを色鮮やかな屏風と裏寂れた衝立で表現しました。




物語は5人の「語り」によって、銘酒屋「菊の井」のシーン、落ちぶれた「源七の家」のシーンへと進められます。




苦渋の日々を送る源七とお初もやがて破局を迎えます。




魂祭り過ぎて幾日、まだ盆提灯のかげ薄淋しき頃、新開の町を出し棺二つあり、
一つは駕にて一つはさし担ぎにて、駕は菊の井の隠居処よりしのびやかに出ぬ・・・




音楽は、複雑な心模様を繊細なクラリネットが奏でました。この作品のために、三宅悠太さんに作曲していただき、平井洋行さんの素晴らしい演奏が、一段と舞台に花を添えてくれました。



プロフィール

平井洋行

東京芸術大学卒業後、同大学院修士課程修了。吹奏楽オーケストラ、室内楽のクラリネット奏者として活躍しながら、後進の指導にも力を注いでいる。

三宅悠太

1983年東京生まれ。2001年国土交通省CM音楽公募優秀賞、2005年第16回奏楽堂日本歌曲コンクール作曲部門第一位。現在、東京芸大作曲科4年在学中。


お力もお初も私のこと
                         構成・演出 浅川安子

 「ああ嫌だ、嫌だ」。お力は人生がつらいと言う。苦しいと言う。
 明治20年、24歳で死んだ樋口一葉が、死の前年に書いた「にごりえ」。その中で一葉がお力に吐かせるこの身もだえするような苦しみの言葉に、私はたたずんでしまう。
 思えば一葉はその全ての作品で、生きることの悲しさ、つらさ、せつなさ、むごさを紡いだ人だ。自分の置かれたところが居心地が悪いからとて、去るもならず、なじむもならず、引き裂かれながら「菊の井のお力を通してゆこう」と言う。源七とてお初とて同じ、思いのままにならない生にうめいている。
 100年経って今、私たちはもう引き裂かれなくなったのだろうか。




座席数150席あまりのこじんまりした映像ホール、舞台と客席が「にごりえ」の世界で心を寄せ合いました。





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