☆例会日誌 −2008年10月−

 10月12日(日)13日(休)  報告者 田中勝義
   「声の会」合宿2008秋 その半私的報告 或は「演出家とぼくらの2日間戦争」                      

PART1 雄叫び・雌叫びーーエチュードから「赤い太鼓」へ   (12日  9301200
 爽やかな朝の空気を切り裂くような叫び声が響く。
「火事だ! 火事だ!」  
続いて野太い声がする。
「泥棒!」
黄色い声が追いかける。
「痴漢です! この人、痴漢ですぅ!」(何やら華やいでいる)
「待ってぇ! ねぇ、待ってぇー!」( ん? どこか体験の裏づけを思わせる哀切な声)
中高年男女の一群の狂喜乱舞に、通り過ぎた警備員が戻りかけたりして・・・・
合宿はこんな爆発的な「エチュード」から、順調にスタートしたのだった。

 演出より、「はじめに」の挨拶。(さっきの狂騒は、ケロリと忘れたような、クールな語り口がニクイ)
@「朗読」と違って「朗読劇」では、「役を演じる人」は「先のことがわかっていない」ものとして演じて欲しい。舞台の上で、人として今生きていることが大事。心が豊かに動くこと。「読む」ではなく「語る」こと。
Aパターンでやるな。「いかにも〜ふう」はやめよう。オーバーになり過ぎないように注意しよう。
B自分の中のゆがみ、アモルフ(無定型)なもの、恥ずかしい面を見せる努力を!
C「みんなが演出助手」のつもりでいてほしい。「ここはこうしたら?」と意見やアイディアを持ってきてくれたら嬉しい。
ーー以後2日間、ぼくらは@〜Cの「演出方針」に沿って、螺旋階段を上っていくことになる。

 まず「赤い太鼓」の練習。舞台に7人の「女」たち(コロス)が並んで群読する仕掛けが立体感を生んでいる。
 一人一人の朗読者に演出よりの丁寧なダメ出しが始まる。「本当に感じてる? 思ってる?」「まだ今はその読み方で固めないでね。いろんな読み方を工夫して」「セリフの掛け合いはテンポ良くやって。無意味な間を置かないこと」など。
とりわけ「言いやすい相手」(演出の弁)だというぼくには、執拗に、モトエッ、丁寧に粘り強く、ダメ出しの声が飛ぶ。「いかにもそれふうに読んでいて、聴いていてイメージが湧かない」「カッコつけて歌い上げるのではなくて、心の底から語って」「語尾を延ばす癖がある」・・・・・・ウーン。前途遼遠!

PART2 新人登場!――「ヴィヨンの妻」&個人発表会   (12日  100500
 午前中の残りの部分から。精魂込めて臨んだぼくの読みに、演出から思いがけぬ拍手。「力が抜けていて、いい。努力が分かる」と。嬉しくて、思わず軽口が出た。「厳しく言われた方がいいです。工夫しますから。だから、ぶってぶって!」・・・・・笑いを誘ったものの、この言葉が後々裏目に出ようとは、ぼくはまだ気づいていなかった。
 「ヴィヨンの妻」の練習に入る前にちょっとした「エチュード」。「酒場の主人」役と「女将」役(それぞれ複数)が台本を持たず車座になって、「自己紹介」をし「ヴィヨン=大谷」についての思いを語るという趣向。これが意外に面白く、後の稽古に役立つ。とりわけO君(幼馴染で、小・中・高とずっと同じ学校だったので、こう呼ばせてください)の、ドスの利いた低音の流暢な語りに、不思議な存在感が宿る。
 「ヴィヨンの妻」に入ってからも、演出の容赦ない言葉が襲い掛かる。「ただしゃべってる。お客さんは早く終わらないかと待っている」「緩急や間を意識して」「まだ20%しか気持ちが出ていない」など。
 ここで新人のY青年が練習に加わる。ラストに登場して「ヴィヨンの妻」を犯す重要な役どころ。待望久しかった「若い男」の参加だ。演出の指導に一段と熱が入り、細かく動きまでつけていく。Y青年は素直に応じていたが、内心はどうだったのだろう?(コラム「Y青年のつぶやき」参照)
 演出のボルテージは上がる。「Eさん、もっと弾けてッ。ハイッ、『火事だ! 火事だ!』って叫んで」「次はKさん改造計画ね」と、エネルギッシュ。その一方で「そのセリフ、そんなに中途半端にやるなら、やらないほうがいい。削ってください」と、ぎらりと冷たく光るナイフのような言葉も飛び出す。・・・・
 今回の目玉企画「個人発表会」も盛り上がった。(「個人発表会・作品リスト」参照) 小説・詩・エッセイ・ホラー話・絵本、それぞれ持ち寄った作品を生き生きと朗読する。人柄や力量がうかがえて、「声の会の選手層は厚いなぁ」と実感する。「いいですねぇ、それぞれ個性が出て、みんな違ってて」演出が金子みすゞの詩のようなことを温かい声で言う。

PART3 「寝ながら考えて!」――「ヴィヨンの妻」   (12日  630930
 秋の夜が更けても練習は熱い。演出のパワーはいっこうに衰えない。「読むのではなく、メリハリのある語りを!」「ブツブツ切らずに、意味のあるまとまりをつなげる」−−−基本はぶれない。
 kさんが「大谷」の内面のイメージを捉えかねている時、すかさずこう言い放った。「宿題ね。今夜寝ながら考えて!」 声は優しく内容は厳しく。
 そういえば、小林多喜二の『蟹工船』の鬼のような現場監督も「A」という名だったっけ、と脈絡もなくふと思う。だがそんなつかの間の物思いも、演出の「嬉しいな、この部屋9時半までOKだって」という明るい声に断ち切られる。それぞれの疲れの中で、疲労の色も見せず、しなやかな女豹のように悠然と伸びをする我が演出家の姿を、眩しく見上げた人も多かったことだろう。
「地獄さ行(え)ぐんだで」 『蟹工船』の冒頭の一句が、また何の脈絡もなく心に浮かんだ。

●夜、男たちの部屋――親密感・連帯感 
 男たちは「反乱」のための密談を交わすでもなく、あくせくと「宿題」をやるでもなく、静かに本音トークした。「今日は9時間半の練習ですよね。でも演出は一人でやってるんだから・・・・」と誰かが言い、みんな深くうなずきあった。

PART4 パワー全開!――「赤い太鼓」再び (13日   9001200 
 午後の通し稽古に向けて、演出家はますますヒートアップ。髪振り乱し、飛んだり跳ねたりのボディアクション。さながら阿修羅の如く。こんな時にはこの人の擬態語が冴え渡る。「Iさん、そんな天気晴朗な読み方ではダメよ。タンタカタンタカ読まないの!」「Eさん、踊りながらセリフ言ってみよう。ハイ、ハッハハッ、ハッハハッ、ハッハハッ!」・・・・これで通じてしまうから不思議である。
 実は、ぼくは初日の軽口がたたってか、ボカスカとダメ出しの雨あられでサンドバック状態だった。(悪罵と嘲弄。「サディスティックお安!」)「語りかけになっていない! 自分の声に酔っているんじゃない?」「いや、そんな余裕はありません」
 落ち込みかけたぼくを救ってくれたのは、仲間のフォロー(アドバイス)と、このノーテンキな擬態語だったように思う。
ソレ、タンタカタンタカ、ハッハハッ、ハッハハッ・・・・

PART5 秋の稲妻――「ヴィヨンの妻」再び 13日  100230  
 「何なの、これは!? 昨日やったじゃない!」
珍しく怒気を含んだ声。「Oさん、どういうことなの? 昨日のように出してる(表現してる)つもりだと言うの?」O君は例のドスの利いた声で答える。「出さないつもりはありません」・・・・演出思わず絶句。これは直球だろうか、変化球だろうか。彼は静かにこう言い添えた。「失望を与えるつもりはありません」何という率直さだろう。その時ぼくは、この幼馴染と半世紀を隔てて再会しこうして同じ舞台に立つことになったことを、改めて幸福だと感じていた。

PART6 ソフトランディング――通し稽古 13日  245425
 美術担当の依光さんが駆けつけてくださり、通しての練習。直前までダメ出しが続いていたため、気持ちの整理ができていなかったが、気合を入れて臨んだ。(通しの朗読は8月24日のキャスティング発表の当日以来、2回目)
 「赤い太鼓」は割合にテンポ良く進んだ。みんな徐々に手ごたえをつかんでいる。ところが「ヴィヨンの妻」に入ると、いつの間にかテンポ感は失われ、太宰特有の饒舌体が空回りしていて、平板さの中に時間がよどんでいるように感じられた。ボク自身、この合宿で厳しく指摘された点がクリアできてなくて、セリフを読むたびに心の中で「キャッ!」と叫び声を上げていた。依光さんは、と見ると、「考える人」のポーズでじっとしておられる。「退屈なのかなぁ」と心配になる。不完全燃焼のうちに100分間の「通し」は終わった。その瞬間、拍手が響いて、その主は演出家だった! 温かい拍手だった。
 そしてラスト・メッセージ。
 「@ 三分(さんぶ)登った感じ。バタバタ始まっちゃったけど、いざ始まってみると、緊張感があって、良かった。A問題は、『間』が誰もないこと。自信がないから、トントコトントコ行ってしまう。お客はついてくる気力もなくなる。『今回は話芸に取り組むよ』といったのはこのことだ。客は待っている『間』が楽しいのだ。そのかわり畳み掛けるテンポ、緩急自在さが必要。Bとにかく台本を何度も何度も読むことが大事。C大丈夫、みんな『自由』になりつつある」

 Nさんのしめくくりの言葉「これからも(あと5ヶ月!)がんばりましょう。合宿担当のIさん、Nさん、ご苦労様でした!」にみんなが拍手で応じて、合宿は終わった。
 体調不良を押しての参加の人もあり、早朝のジョギングをこなした人もあり、いつもと変わらぬ元気印を輝かせていた人もあり、それぞれの「合宿」であった。だが、仲間への親しみが増し、それぞれがそれぞれの(あるいは共通の)課題を認識したという点では、意義深い「合宿」だった。
 「演出家とぼくらの2日間戦争」も何のことはない、敵の用意周到さと圧倒的なパワー・情熱を見せつけられただけに終わった感もあるが、闘いは始まったばかりだ。ぼくはこの「報告」を台本中の徳兵衛のセリフで、こうしめくくろうと思う。強いファイトと深い感謝の思いを込めて。
 「おのれ、今に見ろ!」


個人発表会・作品リスト

@中村   太宰治       「駈込み訴え」
A名越   茨木のり子詩集 「歳月」より6篇
B田中   渡辺美佐子    「りんごのほっぺ」
C小川タ  久世光彦     「正座」
D小塚   竹山道雄     「ビルマの竪琴」
E小林   宮部みゆき    「神無月」
F瀧川   ニーチェ      「ツァラトゥストラ」
G石垣   星野富弘     「渡良瀬川」
H黒澤   群ようこ      「噂好きの猫」
I廣瀬   ホラー話      「4人組の地獄めぐり」
J鬼久保 古川日出男     「タワー/タワーズ」
K小川カ              「外郎売」など
L江澤   ジェイン・ヨーレン 「月のみみずく」


[コラム]
 Y青年のつぶやき

 とにかく驚いた。なにやら威勢のいいおばさんが、いきなり「あなたは主人公の女性を犯す役ね」と言って、手取り足取りの演技指導だ。「ハイ、そこで酔っ払って、倒れる!」フツー言うかぁ?そういうこと、初対面なのに。でも熱意は十分に伝わって来たので、「やめてやるー!」とは言わなかった。
 お手柔らかに願います。ヨロシク!
                        (文責・田中)






10月28日 13:00〜17:00                        
於 針ヶ谷公民館 体育室

○1:00〜   台本の直し(現在100分を90分にするためのカット)
          大雑把な動き(出入り)の指示
○2:00〜   欠席者をとばしながら、最初から読む

◎各自体調に注意して欠席なきよう。
    (筆者 本日腹痛にて不調)
◎次回、音楽担当の三宅さんがいらして、後半通します

                                         (N 記)




| トップページ | 規約 | 活動記録 | 例会日誌 | リーディングドラマ|
| 星の王子さま |
ギリシャの男たちトロイアの女たち |にごりえ| 流れる星は生きている|
inserted by FC2 system